
クラウド環境の拡大に伴い、ID管理基盤である Microsoft Entra ID(旧Azure AD)の安定運用が企業のセキュリティと生産性を左右する時代になりました。本記事では、インフラ運用の観点からEntra IDを24時間365日監視する意義と実践的なポイントを解説します。
Entra IDがインフラ運用の中核となる背景
かつてはオンプレミスのActive Directoryが認証基盤の主役でしたが、SaaS利用の急増とリモートワークの定着により、クラウドベースのID管理基盤であるEntra IDが企業インフラの中核へと位置づけを変えています。ここではその背景を3つの視点から整理します。
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クラウドシフトによる認証基盤の変化
Microsoft 365やTeamsをはじめとするクラウドサービスの活用が企業活動に深く浸透し、IDを中心としたアクセス管理が重要性を増しています。総務省「令和7年版 情報通信白書」によれば、2024年時点でクラウドサービスを利用する企業の割合は80.6%に達しており、クラウドは業務を支える重要なデジタル基盤となっています。
こうした環境では、Microsoft Entra IDのような認証基盤がメール、チャット、ファイル共有、業務アプリケーションなど複数のクラウドサービスへのアクセスを集中的に管理するケースが一般的です。そのため、認証基盤に障害や設定不備が発生した場合、業務に不可欠なサービスの利用に広範な影響が及ぶ可能性があります。
また、「令和7年版情報通信白書」は、クラウドサービスを含むデジタル領域が社会基盤としての機能を強める一方で、信頼性の高いデジタル基盤の確保が重要な課題になっていることを指摘しています。
このような背景から、企業にはネットワークやサーバーだけでなく、認証・ID基盤そのものを重要な監視対象として捉え、継続的に健全性を確認する体制が求められています。
ゼロトラスト時代におけるID監視の重要性
ゼロトラスト(すべてのアクセスを信頼せず継続的に検証する考え方)の普及により、「誰がアクセスしているか」を監視するID管理の重要性が高まっています。クラウド利用の拡大やリモートワークの定着に伴い、不正サインインや権限の濫用を早期に発見することが、セキュリティ対策の基本となっています。
IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、「ランサム攻撃による被害」が1位、「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が2位に選出されました。また、「リモートワーク等の環境や仕組みを狙った攻撃」や「ビジネスメール詐欺」も引き続き主要な脅威として挙げられています。これらの攻撃では、認証情報の窃取や不正ログインが侵入の足掛かりとなるケースが少なくありません。
そのため、ID・認証基盤の監視は、サイバー攻撃の早期発見と被害拡大の防止に欠かせない取り組みといえるでしょう。
ID障害が業務に与えるインパクト
Entra IDに障害が発生した場合の影響は以下のように多岐にわたります。
- Microsoft 365全般(メール・Teams・SharePoint)へのログイン不可
- SSO(シングルサインオン)連携している他社SaaSへのアクセス遮断
- 条件付きアクセスポリシーの誤動作による正規ユーザーのブロック
- MFA(多要素認証)の認証失敗によるヘルプデスクへの問い合わせ集中
このように、一つのID基盤の問題が全社規模の業務停止を引き起こす可能性がある点を、経営層も含めて認識しておく必要があります。
24時間365日のID監視体制を構築する実践ポイント
Entra IDの監視が重要であることは理解しても、具体的にどう体制を整えるかが課題になるケースは少なくありません。効果的な24時間365日の監視体制を実現するには、監視項目の選定・アラート設計・運用体制の3つを同時に整備することが求められます。それぞれの詳細を見ていきましょう。
監視すべき主要項目の選定
Entra IDから取得できるログやシグナルは膨大なため、業務影響度の高い項目に優先順位をつけて監視対象を絞ることが運用効率の鍵になります。最低限押さえておきたい監視項目は以下のとおりです。
- サインインログ(成功・失敗・リスク検出イベント)
- 条件付きアクセスポリシーの適用状況
- 特権ロール(グローバル管理者など)の変更履歴
- サービス正常性ダッシュボードのステータス変化
- ディレクトリ同期(Entra Connect)のエラー
すべてを均等に監視しようとするとアラート疲れを招くため、ビジネスクリティカルな項目から段階的に拡張する方針が現実的です。
アラート設計とエスカレーションフローの整備
監視項目を定めただけでは不十分で、検知した異常を「いつ・誰に・どう伝えるか」を事前に設計しておくことが迅速な対処につながります。たとえば、深夜帯に特権アカウントの不正利用が検知された場合、メール通知だけでは気づかない可能性があるでしょう。
実務では、重大度に応じてSlackやTeamsへの即時通知、電話エスカレーションなどを段階的に設定する方法が有効です。以下のように重大度を分類すると整理しやすくなります。
|
重大度 |
事象例 |
通知方法 |
対応目標時間 |
|
Critical |
全社的な認証障害・特権アカウント侵害 |
電話+チャット |
15分以内 |
|
High |
特定テナントの同期エラー・リスクイベント多発 |
チャット+メール |
30分以内 |
|
Medium |
個別ユーザーのMFA失敗急増 |
メール |
翌営業日 |
こうした設計を文書化し、定期的に訓練を行うことで、有事に確実に機能する体制が築けます。
自社運用と外部委託の最適なバランス
24時間365日の監視体制をすべて自社で維持するのは、人員とコストの面で大きな負担となります。特に中堅企業では、夜間・休日シフトの確保が難しいケースが多いのではないでしょうか。
そこで選択肢となるのが、日中帯は自社チームで対応し、夜間・休日はアウトソーシング先に一次対応を委託するハイブリッド型の運用です。外部パートナーを選定する際は、以下の点を評価基準にすると良いでしょう。
- Entra IDを含むMicrosoft 365環境の運用実績
- インシデント発生時の初動対応フローの明確さ
- SLA(サービスレベル合意)で定義された応答時間・復旧目標
- 定期レポートや改善提案の提供有無
自社のコア業務に集中しながら監視品質を維持するには、信頼できるパートナーとの協業が現実的な解と考えられます。
まとめ
本記事では、インフラ運用におけるEntra IDの位置づけと、24時間365日のID監視体制を構築するための実践ポイントを解説しました。要点を振り返ると以下のとおりです。
- クラウドシフトとゼロトラストの浸透により、Entra IDは企業インフラの中核へと変化している
- 監視項目の優先順位づけ、アラート設計、エスカレーションフローの整備が運用品質を左右する
- 24時間365日の監視を実現するには、自社運用と外部委託のハイブリッド型が現実的な選択肢となる
ID基盤の安定運用は、社員の生産性だけでなく顧客との接点を守ることにもつながります。「接点から、感動を」という理念のもと、当社はインフラ運用の最前線で培った知見を活かし、お客様の課題解決を支援しています。ID監視体制の構築や見直しをご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。
Entra IDの監視体制や運用全般についてのご相談は、当社問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
2023年にMicrosoftが「Azure Active Directory」を「Microsoft Entra ID」へ名称変更しました。機能面での大きな変更はなく、クラウドベースのID・アクセス管理サービスであることは同じです。名称変更の背景には、Entraブランドへの統合によりセキュリティ製品群を分かりやすく整理する狙いがあるとされています。
企業規模よりも、Entra IDに依存するサービスの数と業務への影響度で判断すべきです。従業員数が少なくても、ECサイトや顧客向けポータルの認証基盤としてEntra IDを利用している場合は、夜間・休日の障害が売上や信頼に直結します。まずは自社のID基盤がどの業務プロセスに関わっているかを棚卸しすることをおすすめします。
Microsoft Entra管理センターやAzure Monitorだけでも基本的な監視は可能です。しかし、他のクラウドサービスやオンプレミス環境も含めた統合的な監視を行いたい場合は、SIEM(セキュリティ情報イベント管理)ツールとの連携を検討する価値があります。Microsoft Sentinelのほか、サードパーティ製SIEMとの組み合わせも選択肢になるでしょう。
理想的には統合的に運用することが望ましいと考えられます。たとえば、ネットワーク障害が原因でEntra IDへの接続が不安定になるケースでは、インフラ側のアラートとID側のアラートを突合することで原因特定が早まります。運用チームが分かれている場合でも、共通のダッシュボードやエスカレーションフローを設けることで連携を強化できます。