
テレワークやクラウド活用が当たり前となった今、従来の境界型セキュリティでは情報資産を守りきれない場面が増えています。そこで注目されているのが「ゼロトラスト」という考え方です。本記事では、ゼロトラスト導入を検討する情報システム部門やセキュリティ担当者に向けて、導入の進め方や押さえるべきポイントを解説します。
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ゼロトラストとは何か|従来型セキュリティとの違い
ゼロトラストとは、「社内ネットワークであっても無条件には信頼しない」という前提に立つセキュリティモデルです。従来の境界型防御がファイアウォールの内側を安全と見なしていたのに対し、ゼロトラストではすべてのアクセスを都度検証します。ここでは、その基本概念と注目される背景、そして従来型との具体的な違いを整理していきます。
ゼロトラストの基本概念と原則
ゼロトラストの核心は「Never Trust, Always Verify(決して信頼せず、常に検証する)」という原則にあります。米国国立標準技術研究所(NIST)の「SP 800-207 Zero Trust Architecture」では、ネットワークの内外を問わず、すべてのリソースへのアクセスを継続的に評価・認可する考え方が示されています。具体的には、ユーザーの本人確認だけでなく、端末の状態やアクセス元の場所、利用時間など複数の要素を組み合わせてアクセス可否を判断する仕組みです。一度認証を通過した後も継続的な検証を行うため、不正アクセスの被害を最小限に抑えられる点が大きな特長といえるでしょう。
(出典:NIST「SP 800-207 Zero Trust Architecture」、PwCコンサルティング合同会社による日本語翻訳版「NIST SP800-207 「ゼロトラスト・アーキテクチャ」の解説と日本語訳」)
境界型セキュリティの限界と背景
従来の境界型セキュリティは、社内ネットワークと外部ネットワークの間にファイアウォールやVPNを設置し、「外は危険、内は安全」と線引きする考え方でした。しかし、テレワークの定着やクラウドサービス利用の拡大により、社員が場所を問わずクラウド環境へアクセスする機会が増えています。 総務省「令和8年版 情報通信白書」によると、日本のパブリッククラウドサービス市場は2025年に前年比20.3%増の4兆4,930億円へ拡大しており、クラウドが企業活動に不可欠な基盤となっていることが示されています。企業の重要なデータやシステムが社内ネットワーク外のクラウド環境に分散している現在、従来の境界型セキュリティだけでは十分な対策が難しくなっています。 こうした環境変化により、境界そのものが曖昧になった今、内部も含めたすべてのアクセスや通信を継続的に検証するゼロトラストの考え方が不可欠になっていると考えられます。
(出典:総務省「令和8年版 情報通信白書(クラウドサービス市場動向)」)
従来型とゼロトラストの比較ポイント
両者の違いを端的に整理すると、以下のようになります。
|
比較項目 |
境界型セキュリティ |
ゼロトラスト |
|
信頼の基準 |
社内ネットワーク内は信頼 |
すべてのアクセスを都度検証 |
|
主な防御対象 |
ネットワークの境界 |
データ・アプリケーション単位 |
|
テレワーク対応 |
VPN依存で帯域に課題 |
場所を問わず一貫したポリシー適用 |
|
内部不正への耐性 |
内部は監視が手薄になりがち |
内部通信も検証するため強い |
このように、ゼロトラストは「どこからアクセスしても同じ基準で安全性を確保できる」点で、現代のはたらき方に適したモデルだといえるでしょう。
ゼロトラスト導入を成功させる3つのステップ
ゼロトラスト導入は、既存環境を一夜にして置き換えるものではありません。現状の把握から段階的に移行する計画が成功の鍵です。ここでは、導入を進めるうえで押さえるべき3つのステップを解説します。
現状のセキュリティ資産を棚卸しする
導入の第一歩は、自社のIT資産とセキュリティ対策の現状を正確に把握することです。どのシステムにどのユーザーがアクセスしているのか、端末管理はどこまで行き届いているのかを可視化しなければ、適切な対策の優先順位を決められません。
具体的には、以下の項目を洗い出すことが推奨されます。
- 利用中のクラウドサービスとオンプレミスシステムの一覧
- ユーザーアカウントの棚卸しと権限の整理
- 業務端末の種類・OS・管理状態の把握
- 現行のセキュリティツールとその適用範囲
この棚卸しを怠ると、対策の抜け漏れや重複投資が発生しやすくなります。地味ながらも最も重要な準備工程であるといえるでしょう。
優先度の高い領域から段階的に移行する
ゼロトラストの構成要素は、ID管理・デバイス管理・ネットワーク制御・アプリケーション保護・データ保護など多岐にわたります。すべてを同時に導入しようとすると、コストもリスクも膨らむため、優先度の高い領域を見極めて段階的に進めるアプローチが現実的です。
多くの企業が最初に取り組むのは、IDaaS(Identity as a Service)を活用した多要素認証の導入や、シングルサインオンの整備です。なぜなら、不正アクセスの多くが認証情報の窃取に起因しているためです。この領域を固めたうえで、端末管理やネットワークのマイクロセグメンテーションへ段階的に広げていくのが効果的でしょう。
運用体制と継続的な改善の仕組みを整える
ツールを導入しただけでは、ゼロトラストは機能しません。アクセスログの監視、ポリシーの定期見直し、インシデント発生時の対応フローといった運用体制の構築が不可欠です。
特に重要なのは、導入後のPDCAサイクルを回す仕組みづくりです。新たなクラウドサービスの追加やリモート環境の変化に応じて、認証ポリシーやアクセス権限を柔軟に更新する必要があります。社内にセキュリティ運用の知見が不足している場合は、外部の専門パートナーを活用してSOC(セキュリティオペレーションセンター)機能を確保する選択肢も検討すべきでしょう。
ゼロトラスト導入でよくある失敗と対策
ゼロトラスト導入は注目度が高い一方で、計画が頓挫したり期待した効果を得られなかったりする事例も少なくありません。ありがちな失敗パターンを事前に知っておくことで、同じ轍を踏むリスクを大幅に下げられます。以下では代表的な3つの落とし穴を取り上げます。
ツール先行で目的が曖昧なまま進む
「ゼロトラスト製品を入れれば安全になる」という誤解は、最も多い失敗要因です。ゼロトラストはあくまで設計思想であり、特定の製品を導入すれば完成するものではありません。
自社が何を守りたいのか、どのリスクを優先的に低減したいのかという目的が不明確なまま製品選定を始めると、導入後に「想定していた効果が出ない」「現場の業務に合わず使われない」という事態に陥りがちです。まずは経営層とセキュリティ部門が連携し、組織として達成すべきセキュリティゴールを明文化することが出発点となります。
現場の利便性を軽視して反発を招く
セキュリティを強化するあまり、認証の手間が大幅に増えたり、これまで使えていたツールが制限されたりすると、現場のはたらきやすさが損なわれ、シャドーIT(情報部門が把握していないIT利用)を助長する恐れがあります。
ゼロトラスト導入は、セキュリティと利便性のバランスが極めて重要です。たとえば、リスクの低い操作では認証をシンプルにし、機密性の高い操作でのみ追加認証を要求する「リスクベース認証」を採用するなど、ユーザー体験を損なわない設計が求められます。現場部門の意見を早い段階から取り入れることが、スムーズな移行につながるでしょう。
導入後の効果測定を行わない
導入がゴールになってしまい、その後の効果を定量的に追わないケースも散見されます。インシデントの検知件数や対応速度、VPN障害の発生頻度といったKPIを設定し、定期的に評価する仕組みが重要です。
効果が可視化されなければ、継続投資の承認を経営層から得ることも困難になります。四半期ごとにレポートを作成し、改善ポイントを洗い出すサイクルを運用フローに組み込むことを推奨します。
まとめ
ゼロトラスト導入は、単なるセキュリティ製品の入れ替えではなく、「すべてのアクセスを検証する」という設計思想への転換です。本記事で解説したとおり、成功のためには現状の棚卸し、段階的な移行計画、そして運用体制の構築という3つのステップを着実に踏むことが重要となります。
導入時にはツール先行にならないよう目的を明確にし、現場の利便性とのバランスを保ちながら、効果測定まで含めた継続的な改善サイクルを回していくことが求められます。ゼロトラストの考え方を取り入れることで、場所やデバイスを問わず安心してはたらける環境を構築でき、結果として組織全体の生産性向上にもつながるでしょう。
パーソルコミュニケーションサービス株式会社は、「接点から、感動を」をミッションに掲げ、企業のIT運用やセキュリティ基盤の整備を支援しています。ゼロトラストの導入検討や、既存のセキュリティ体制の見直しをお考えの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
ゼロトラスト導入やセキュリティ体制の強化についてのご相談は、当社問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
企業の規模や既存環境によって大きく異なりますが、一般的にはID管理基盤の整備だけでも3〜6か月程度を要します。全体的なゼロトラストアーキテクチャの構築には1〜3年かけて段階的に進めるケースが多いです。最初からすべてを完璧に構築しようとせず、優先度の高い領域から着手し、段階的に成熟度を高めるアプローチが現実的です。
企業規模にかかわらず、クラウドサービスの利用やテレワークを実施しているのであれば検討する価値があります。中小企業はサプライチェーン攻撃の標的にされやすい傾向があり、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威 2024」でも取引先経由の攻撃が上位に挙げられています。クラウド型のIDaaS製品など、初期投資を抑えて始められるソリューションも充実しているため、段階的に取り組むことが可能です。
ゼロトラスト導入後もVPNを完全に廃止する必要はありません。移行期間中はVPNと新しいアクセス制御を併用するハイブリッド構成が一般的です。ただし、最終的にはSDP(Software Defined Perimeter)やZTNA(Zero Trust Network Access)へ移行し、VPN依存を減らしていくことが推奨されます。段階的に切り替えることで、業務への影響を最小限に抑えられるでしょう。
まずはIT資産の棚卸しと、IDおよびアクセス管理の整備から着手することを推奨します。すべてのユーザーアカウントと権限を可視化し、不要なアカウントの削除や多要素認証の導入を進めることが、最もコスト効果の高い第一歩です。土台となるID管理が整っていなければ、その上に構築するデバイス管理やネットワーク制御も十分に機能しません。