サイボウズ株式会社は2015年、業務改善プラットフォーム「kintone」の製品サポートを皮切りに、パーソルコミュニケーションサービス株式会社(以下、CSL)との取り組みをスタートさせました。以来11年にわたり、テクニカルサポートからカスタマーサクセス、バックヤード業務へと支援領域を拡大。kintoneのサポートでは、かつて70%台だった応答率が現在は98〜99%まで向上し、HDI-Japanの格付け評価でも5年連続で最高評価の三ツ星を獲得しています。
今回は、サイボウズ株式会社の濱田大輔氏・齋藤操氏と、CSLで長年このプロジェクトに携わってきた安惠千夏・田中康喬が、11年間の歩みを振り返ります。業務の拡大や成果だけでなく、その過程で両社がどのような関係を築いてきたのか。そしてAI活用が進む中、これからの有人サポートをどう考えているのかを伺いました。
サイボウズ株式会社カスタマー本部
カスタマーリレーション部 部長 濱田大輔氏
カスタマー本部 カスタマーサクセス部 部長 齋藤操氏
パーソルコミュニケーションサービス株式会社
マネジャー 安惠千夏、田中康喬
写真左から、業務委託の検討段階からプロジェクトに参画してきた齋藤操氏、立ち上げから約1年後にテクニカルサポートの担当責任者として加わった濱田大輔氏、業務領域や拠点の拡大に携わってきた営業の田中康喬、札幌拠点の立ち上げを一人で担った運用責任者の安惠千夏。
問い合わせ増加に伴い、電話の応答率が70%台にとどまっていた
拠点・窓口体制を強化し、応答率90%以上を安定維持
製品サポートを中心に、顧客対応体制の拡大が必要だった
製品サポートからCS・インフォメーション・営業支援まで支援領域を拡大
松山拠点にサポートが集中し、事業拡大やBCPを見据えた体制強化が必要だった
札幌・横浜などへ拠点を拡大し、安定した顧客対応体制を構築
導入前の課題
クラウド化とBCPを背景に始まった、CSLとの取り組み
サイボウズは2011年、パッケージ販売からクラウドサービスへと大きく舵を切りました。サービスを利用するハードルが下がり、顧客層が広がるにつれて問い合わせも増加。それまで松山の拠点に集約していたサポート体制を、将来の利用拡大を見据えて強化する必要がありました。
「クラウドサービスを始めてお客様がどんどん増えていく中で、増加する問い合わせに対応できる体制を今からつくっていかなければ、という課題がありました。もう一つが南海トラフ地震への備えです。当時は松山のセンターですべての主力製品をサポートしていたので、そこが稼働できなくなった場合でも、お客様を支え続けられる体制を整えることが急務でした。そこでアウトソーサーを探し始めたのが2014年の夏です」(サイボウズ 齋藤氏)
数社を比較検討する中で、齋藤氏の印象に強く残ったのが、CSLの新潟センターを見学したときのことでした。
「実際にサポートしている様子や実演を見せていただいて、非常に驚きました。私たちには大規模なセンターを運営した経験も、業務委託を拡大していく経験もなかったので、お願いするアウトソーサーさんから学びたいという気持ちも強くありました」(サイボウズ 齋藤氏)
選定にあたって重視したのは、東日本でセンターを立ち上げられるBCP対応力、サイボウズの成長に合わせて体制を拡張できる柔軟性、そしてサポート品質を一緒に高めていけることでした。さらに、数値化しにくい企業文化への理解も、CSLを選ぶ大きな理由になったといいます。
「クライアントのカルチャーを知り、一緒に土台をつくりながら理想のコンタクトセンターをつくっていく、という話がありました。『リスペクト』という言葉を大事にしていたのも印象に残っています。私たちのカルチャーや大切にしたいことを理解したうえで、一緒に走ってくれそうだと感じた。それが、社内の意思決定を後押ししました」(サイボウズ 齋藤氏)
こうして2015年11月、サイボウズ札幌サポートセンターでkintoneの製品サポートがスタートしました。その立ち上げを担ったのが安惠です。サイボウズが掲げる「公明正大」の文化や、脱Excelを前提とした仕事の進め方など、これまでとは異なる環境の中で研修が始まりました。「kintoneという製品も、脱Excelというはたらき方も、すべてが初めてでした。わからないことだらけで半分泣きながらiPadでkintoneを触っていましたね」(CSL 安惠)
取り組み
「任せる・任される」から、「一緒につくる」関係へ
札幌での業務が始まった当初、安惠には「委託された以上、自分たちだけで完結させなければならない」という意識が強く、わからないことがあってもサイボウズ側に相談することをためらっていたといいます。しかし、サイボウズ側から返ってきたのは「言ってくれれば一緒に考えます」「気づかなくてごめんなさい」という言葉でした。
「一人で抱え込まなくていい、相談しながら一緒につくっていけばいいんだと気づいてから、どんどん距離が近づいていきました。今では齋藤さんたちは、もう同じ会社の人ぐらいの感覚です。苦楽を共にしてきましたから」(CSL 安惠)
一方、サイボウズ側にも、業務を委託したからこそ「失敗させてはいけない」という意識があったと濱田氏は振り返ります。
「自社で対応していた頃は普通に失敗していたのに、委託した途端に失敗が許されなくなるのはおかしいですよね。そんな話をしながら、まずはお互いを知るところから始めていきました」(サイボウズ 濱田氏)
2017年末には、kintoneのサポート業務から撤退する話が持ち上がったこともありました。その際、濱田氏が話していたという言葉を、CSL安惠は今も覚えています。「サイボウズの社員だけでなく、委託先も含めて、サポートに関わる全員が楽しくはたらける場をつくりたい、とおっしゃっていたことが印象に残っています」(CSL 安惠)「私たちから見ても、頼もしいパートナーというより、もうチームの一員、一緒の仲間です。下手したら他部署の社員よりも距離が近いかもしれません」(サイボウズ 濱田氏)
導入効果
応答率70%台から98%へ。支援の広がりとサポート品質の向上
こうした関係を築く中で、CSLが担う業務も少しずつ広がっていきました。kintoneやサイボウズ Officeの製品サポートから、アウトバウンドコール、kintoneのカスタマーサクセス業務、契約に関する問い合わせを受けるインフォメーション業務、対面型の導入相談カフェ、試用中の顧客へRPのフォローコール、さらに松山拠点での営業支援・バックヤード業務まで。拠点も札幌、横浜、松山、日本橋(サイボウズ本社)、へと広がり、現在は約30名のメンバーがサイボウズの顧客対応を支えています。
「何か相談すると、『やってみましょう』とまず動いてくれるんです。それができたら、次はこちらもお願いしてみようという流れで、少しずつ領域が広がっていきました」(サイボウズ 濱田氏)
支援体制の変化を象徴する数字の一つが、電話サポートの応答率です。かつてkintoneの電話問い合わせでは応答率が70%台にとどまり、10件のうち3件ほどは電話がつながらない状況が続いていました。
「当時、主力製品であるkintoneの問い合わせの7割ぐらいが電話だったのですが、その応答率があまり良くなかったです。営業のキックオフで、『今年中に改善させます』と謝罪したのを覚えています」(サイボウズ 濱田氏)
その後、横浜拠点の開設や、インフォメーション窓口の新設など、サポート体制を見直したことで応答率は改善。現在は社内KPIの95%を上回る98〜99%を安定して維持しています。
とはいえ、ただ人員を増やせば解決するという単純なものではありませんでした。サイボウズのサポートでは、一人の顧客に2〜3時間かけて対応することもあり、製品知識だけでなく、顧客の状況を丁寧に聞き取る力も求められます。「それまでは経験者を中心に採用していましたが、基準を見直して、未経験でも対面での接客が得意な人などにも対象を広げました。離職を減らしながら、短期間で電話対応できる人材をどう育てるか。採用と育成の両面で試行錯誤を重ねました」(CSL 安惠)
応答率の改善とともに、サポート品質についても外部から高い評価を得るようになりました。HDI-Japanの格付け評価では2018年に初めて最高評価の三ツ星を獲得。直近では5年連続で三ツ星を維持しています。現在、テクニカルサポートには月平均2,654件の着信があり、放棄呼は5%以内に抑えられています。
今後の展望
AI時代に問われる、“人”でのサポート価値
コンタクトセンター業界でAI活用が進み、サイボウズでもAIサポートの提供が始まっています。そうした中、両社が考えているのが、これからの有人サポートの役割です。
「有人サポートがなくなるとは思っていません。ただ、その役割は変わっていく。ライトな質問はAIに任せ、有人はより難易度が高く、根拠のある回答が求められる場面にシフトしていくはずです。CSLさんと一緒に、今までにない新しいカスタマーサービスの形をつくっていきたいと思っています」(サイボウズ 濱田氏)
「AIに負けないサポートセンターをつくることが、今の個人目標です。コンタクトセンターは電話を受けるだけでなく、こちらから発信していく役割もあります。人だからこそ心を通わせ、この製品を使いたいと思ってもらえるチャンスをつくれる。そこは絶対にAIに負けてはいけない部分だと思っています」(CSL 安惠)
一方、田中は、これまで培ってきたカルチャーを次の世代へ引き継ぐことも重要だと話します。
「札幌で始まったカルチャーを一期生たちが下の世代に伝え続けてきたからこそ、今もその文化が根づいています。このカルチャーの継承を続けていくことが、これからもサイボウズ様が求めるサポートを実現していく力になると考えています」(CSL 田中)
また11年間の取り組みを振り返り、濱田氏が大切だと考えているのが「対話」です。「最初は必要最小限の会話しかしていませんでしたが、コミュニケーション量が増えるほど、関係性が良くなっていく実感がありました。しっかりやるべきことはやりつつ、ところどころに遊び心を持って、お互いを理解するための対話を重ねることが大切だと思います」(サイボウズ 濱田氏)
「発注者と委託先」という関係から始まり、今では「チームの一員」「一緒の仲間」と呼び合う両社。AI時代を迎えても、11年間で築いた関係をもとに、新しいサポートのあり方を一緒に考えていきます。